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私は大学3年生のときに株式会社魚力という街の魚屋にアルバイトとして入社しました。通学していた大学が千代田区の駿河台から八王子市に移ったため、バイトを変える必要があったからでした。しかしそこで、当時社長だった山田勝弘さんと出会ったのです。
「松本、俺はな、うちは東京都民の台所を守ってると思ってる。でも3Kなんて言われて敬遠されるし、社員たちも魚屋なんかと思ってる。俺は会社を大きくしようとは思わない。ただ、入社して良かったと思ってもらえる会社にしたいんだ」
会社を大きくしようとは思わないという言葉は、大学で学ぶ企業経営論とはまったく異なる話でした。ですからそれは本心なのだろうかと疑う部分がありましたし、確かめてみたいという気持ちが起こりました。そこで、求められるまま社長室勤務として働くことになりました。
そうして働くことになった魚力では、さまざまな問題の解決に取り組みました。
・職人さんが積極的に仕事を教えない
・社員が定着しない
・昇給・賞与の後に社員から不平・不満が出る
・店舗間の売上にバラツキがある
・店長が店舗を異動したがらない
・1日12時間労働
・店長が部下指導ができない
・業績会議が売上の低い店長を叩く場になっている
・店長に昇格したがらない
・社員が成長意欲を持っていない
・社員同士で足を引っぱり合う
・お互いの成長を喜べない
・新卒が採用できない
もちろん、どれも簡単に解決できたわけではありません。しかし、経営者の「社員が入って良かったと思える会社にしたい」という思いは本当に強いものでした。その思いに引っ張られるようにして、一つ一つの問題に着実に取り組んだのです。
そうして問題を解決しながら、二度と同じ問題が発生しないようにと仕組みとしてまとめていきました。気づくとそれは、世間で言われる人事制度になっていました。そして「会社を大きくしたいとは思わない」と言った山田さんの言葉とは裏腹に、会社は店頭公開を経て東証2部に上場するまでになり、30年間増収増益も達成してしまいました。
ですから私は、人事制度は専門家が押し付けるものではないと知っています。その会社その会社で現在ある人事上の問題を可視化して解決し、まとめていく仕組みが人事制度なのです。
多くの経営者は誤解させられています。
「私の評価の仕方や処遇の決め方が間違っているから優秀な社員が辞めていく」
これは誤解なのです。私は二十代のころから人事採用担当として働いていましたから、社員の辞める本当の理由を陰で聞いて知っています。社員は自分の評価を知りません。昇給や賞与から推し量っているだけなのです。
「去年よりも頑張って働いた。でも去年よりも昇給額が少なかった。私の頑張りをこの会社は評価してくれていない」
経営者は知っています。昇給・賞与は会社の業績に大きく影響されるということを。社員もうっすらとはわかっています。でも、実際にどのように昇給・賞与が決められているのかはっきりとは知らないのです。だから、「社長、今回は業績が厳しいですけど、賞与お願いします。期待してます」などという社員も出てくるのです。
会社が存続している以上、経営者の評価や処遇の決め方はほとんど正しいのです。よく、人事関係のセミナーや研修に行くと「経営者は人事を知らない」などと言う専門家がいますが、これも大きな間違いです。リスクを持って経営をしているのは経営者です。経営者以上に、その会社の社員を育てるノウハウを持っている人はいません。外部の人間がとやかく言うことではないはずです。
社長室に勤務しながら人事について学ぶために出席したセミナーで、そういった多くの矛盾を感じてきました。人事に苦しむ中小企業の経営者も多く見てきました。魚力で培ったノウハウで多くの中小企業を支援ができないだろうかと思うようになっていたころ、魚力に店頭公開の話が舞い込みました。これを機に、私は独立したのです。
もちろん、起業から現在までに様々な苦い失敗をしてきました。日本で人事制度を構築するために導入するのが常識だと言われている職能資格基準のつくり方も独自に学びました。しかし活用できないことはスグわかりました。評価のできる管理者を育ててほしいと言われ評価者訓練をしたものの、評価のバラツキがなくなることはありませんでした。そうして気づいたのです。前勤務先ではそういったものをつくらずに人事制度をつくりあげたことを。そのような失敗を重ねて出来上がった人事制度が、現在の「経営者が可視化してまとめる」という人事制度の形です。
とはいっても、悩みが尽きることはありませんでした。いくら失敗のない人事制度構築の支援ができるとはいえ、訪問コンサルティングで人事制度構築支援をするためには、1社300万円以上の費用をいただかなければならなかったからです。しかし、中小企業に300万円という費用は大きな負担になります。そこで6年前に考えついたのが、集合研修型コンサルティング、成長塾(人事塾)でした。
当時、人事コンサルティングの同業者たちからは笑われました。
「人事制度は社員を成長させ、業績を向上させる仕組みなんて信じられないし、集合研修型のコンサルティングなんて上手く行きっこない」
ですが、時代は変わりつつあります。社員を道具としてではなくパートナーと考え、社員とともに成長していきたい、社員が成長して業績が向上したらその分昇給・賞与を増やしてあげたいと考える経営者が増え、成長塾を受講しています。もうじき参加企業は400社、成長塾も100期を迎えようとしています。
経営者が今まで何を評価してきたのか、どんな社員を優秀だと判断しているのか。そしてその結果昇給・賞与にどのように反映しているのか、どのように昇給・賞与を決めているのかということを可視化してまとめたもの、それが人事制度です。すべてが経営者の価値観に基づいています。決して経営コンサルタントや人事コンサルタントといった専門家に答えを求めることはできません。その会社はその経営者の思いがあって、そこに社員が集まって企業が成り立っているからです。
「経営者が好きで勤めています」
「経営者がいるこの会社が好きです」
そんな縁で社員は集まるのです。その社員を誤解して辞めることのない仕組みをつくっていただきたいのです。
「会社に入った社員にはお互いに切磋琢磨し、成長していってもらいたい」
「この会社に勤めて良かった、そう全社員に思ってもらいたい」
経営者がそう考えているなら、そうするための仕組みをつくってもらいたいのです。零細企業に勤めて、零細企業を中小企業へ、そして上場企業へと導いたこの人事制度を、これからも人財育成に悩む中小企業の経営者に提供したいと考えています。
大学3年生より株式会社魚力(現在東証2部)にアルバイト入社し、同時に社長の参謀役を務める。大学院中退後に社員となる。
いわゆる「3K」産業と呼ばれる魚屋の業界にあって、サービス残業130時間から業界初のサービス残業ゼロ完全週休2日制を実現。
社員の成長を支援する人事制度を構築し、店頭公開を経て東証2部上場にいたっている。30年連続増収増益も実現。
現在は、人事コンサルタントとして、社員が成長する仕組みづくり(人事制度)構築支援のために日本中を飛び回る。平成22年までの6年間で392社の企業の人事制度づくりを支援し、日本最大級の規模に。
人事コンサルティング業界では日本で初めて満足保証(返金保証)をつけた。人事制度構築成功率は99.7%。
著書にはいわゆる成果主義の弊害を排し、社員を育て成果を向上させるノウハウをまとめた『成果主義人事制度をつくる』(鳥影社)とすべての社員を育てるコツをまとめた『上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか?』(ナナ・ブック)、『「即戦力」に頼る会社は必ずダメになる』(幻冬舎)がある。
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